vol. 006
The dystopia is invading ディストピアの侵攻 [Sep. 2023]

この5年間ほどで、世界は急激に変化したように思う。

その変化の中には良いこともあれば悪いこともあり、単純に評価できることではないが、少なくともこの国の閉鎖的で緊縮的な変化の状況を見る限り、良い方向へ向かっているとは思えない。

さて、そんな状況なのに、この国で幾度となく繰り返される政治の言い訳と、底の見えない経済の落ち込みを見ていると、まるで、私が二十代や三十代前半の頃に、毎晩のように繰り返していた、現実逃避の酒への沈酔と翌朝の気持ちの沈鬱と同じような醜態を見ているようで、批判の声をあげることに微妙な躊躇いを感じてしまう。

一方で、自分で体感したことのある経験だからこそ、その場しのぎの現実逃避とその後におとずれる体調不良という、安直過ぎる出口の無い負の反復が、国家レベルで行われていることに唖然とさせられてもいる。

言葉の意味を意図的に歪曲し、現実を覆い隠しているうちに、本来の言葉の意味も、現在の現実の実態も、何もかもが把握不可能、観測不可能になり、あらゆる意欲が奪われていく状況。

でも、そんな状態に嫌気が差して、いつの間にか私は自分で負の連鎖を断ち切っていた。

何がきっかけだったのか、どうやって断ち切ったのかはうまく思い出せないが、その時の腹の底から湧き出すような猛烈な嫌気だけは覚えている。

人は、何かしら失敗したり、間違いや過ちを犯した時に、何かしら変化しようとするようにできているようだ。

負の連鎖に対する変化のきっかけとして、私の場合、猛烈な嫌気に見舞われたのだろう。

でも、国家や社会が過ちを犯した時には、何が変化のきっかけとなるのだろう?

パンデミック後の朝の満員電車でもみくちゃになりながら、スマホでは「少子化」や「人手不足」のことが書かれたネット記事が踊り、あちこちで見掛けるアルバイト急募と書かれた貼り紙には、急募というわりにはずいぶん魅力のない時給が提示されている。

薄くなる板チョコと量の減るポテトチップス。安くなり続ける通貨。高騰する燃料と値上げ続きの食料品と光熱費。

どこかで間違って、どこかで負の連鎖に陥ってしまったのに、誰も変化を求めようとしない。現在進行系でディストピアが広がっている。