vol. 005
The distorted society 私の中の歪な社会 [may. 2023]

コロナ禍が明け、街のあちこちに人の姿が戻ってきているが、今年は新年度の風物詩でもある黒スーツ姿の心細そうな新卒社員の青年たちの姿も戻ってきた。

駅構内の隅のあちらこちらで小さな群れをなしている様子は、コロナ禍を経た今も健在で、その姿を見ているだけでこちらも切なくなってくる。
自身のことを振り返ってみると、私は二度の新卒入社を経験している。

ひとつは高校卒業後の新卒入社。もうひとつは少し遅れて入った大学卒業後の新卒入社。いずれの就職も小さな会社だったので、同期入社の新卒社員なんていなかったし、そもそもそこに群れる環境はなかった。
高校卒業後の新卒入社。最初は仕事に真面目に取り組んだ。

真面目に取り組めば取り組むほど、仕事を取り巻く状況の出鱈目さに辟易した。
最終的に、真面目に取り組もことを諦めたら、仕事が容易くなった。それ故に仕事を軽んじた。

仕事に就くことが一人前だとされていた時代。それ故に社会をも軽んじた。
それからというもの、毎晩のように飲み歩いては、二日酔いで寝坊して、毎朝のように遅刻した。出社しても体調不良で仕事にならず、見かねた上司から注意を受けても、あげ足ばかりをとっていた。

仕事も社会も軽んじた青年が、最後に行き着く先はいつの時代も変わらない。

仕事を辞めた。
その次の、大学卒業後の新卒入社は、希望の世界に足を踏み入れたが、こちらも高卒の頃と同様、仕事の根本的な内実はあまり代わり映えしなかった。

希望を抱いていただけに幻滅も大きかった。
私は仕事や社会を軽んじてきた。その姿勢は基本的には今でも変わらない。

その一方で、自分の力で意義ある仕事を興し、希望ある社会づくりの一助に貢献している友人や知人の姿も多く見てきた。

彼らには尊敬と畏怖の念を抱いている。
どうやら私は、自らの新卒入社の経験によって、仕事や社会というものを勘違いし、歪な形に規定し過ぎてしまったのかもしれない。

それがとても残念で不幸な出会いであったことは、今になってみるとよく分かる。