2018年 8月
8月1日(水)

八月だ。暑すぎる。もう勘弁だ。

さて、こないだ、夜に娘がリビングの隅っこで、手を叩いたり、両腕を上げたり、前に進んではちょっと戻ったりしているので、「何をしているんだ?」と尋ねると、「バケのオンロ ドってんの」と応えた。

バケのオンロ? はて? 何だろうか? と首を傾げて、しばらく悩み、「お化けの音頭か?」と再び尋ねてみると、娘は黙って肯き、そのまま黙々と「お化けの音頭」らしきものを踊っていたが、たまに「ヨイヨイ!」と自分で合いの手を入れたりして、ちょっと本格的なのである。

しかし、娘が自覚的かつ自発的に踊り始めた初めての踊りが「サルサ」や「サンバ」ではなく、「ショキ」や「グワラ」でもなく、「ケチャ」や「ハカ」でもない、紛れもなく盆踊りだったことによって、あらためて、産まれ育った文化圏からの影響がいかに強靭で根深いかを痛感することとなった。

そして、かつてブレイクダンスなどを真似て踊っていた自分がとても惨めで情けなく思え、懺悔のつもりで、娘とともに黙々と盆踊りを踊ることで、夏の暑く静かな夜は更けていくのだった。

8月3日(金)

相も変わらず連日の猛暑である。

朝から蒸し風呂のような暑さの中、街を歩いていると、次第に感覚や思考が不確かになってきて、自己と外界の境界が崩壊してゆくような錯覚に襲われる。

そんな時は、目についたコンビニに一時避難し、溶け出てしまった感覚を回収し、エアコンの涼しさで思考を引き締め、自分の手先をよく確認し、ようやく自己の境界を取り戻す。

そんな苦労の末、やっと職場に辿り着き、自分の席に座り、アイスコーヒーなどを飲みながら、ふと疑問を感じるのだ。

これから毎年、こんな夏がやってくるのか?

平成最後の夏が、悪夢の夏の始まりになるかもしれないな。

8月6日(月)

相も変わらず連日の猛暑である。

エアコンを朝までつけっぱなしにしていないと、途中で目覚めてしまうほどの寝苦しい夜が続いている。そして、毎朝、寝不足気味で目を覚まし、朝なのに蒸し風呂のようになった街へ出かけてゆく。

こんな夏は初めてだ。

まあ、そんなわけで、週末も娘を外で遊ばせることのできるような陽気ではなかったので、薄暗く涼しい室内で、水中の生き物を眺め、父子ともども無理なく楽しめるだろうと、近くの水族館に遊びに行った。

そして、そんな父の目論見は見事に的中、娘は蟹や海老や蛙の水槽にかぶりつき、父は海牛や海月の水槽にかぶりつき、楽しく涼しいひと時を満喫した。

しかし、最後の最後、出口近くで突如として現れた巨大な2匹の鮫を前に、娘は泣き叫び、父は少しチビって(汗を)しまい、夏の楽しい思い出が、一瞬で恐怖体験にすり替わってしまったのであった。

う~む。 あんなとこで鮫なんか出すなよな!

8月7日(火)

朝起きて、なんなんだこの涼しさは!? と一人で驚いていたのだが、朝刊を読んで一人で納得した。

台風が近づいているそうだ。

暑さも暫らくは休憩中のようで、ちょっと一息の火曜日、もうすぐ盆休みもやってくるし、あとひと踏ん張りだ。

しかし、曇り空で朝が暗かったせいなのか、はたまた、寝苦しさから開放されたせいなのか、娘が寝坊気味で困ります。

8月8日(水)

昨日。

盆と台風の影響で、仕事も気温も静かに落ち着き、夏真っ盛りである筈なのに、突如として、空白と静寂のエアポケットに落ち込んでしまったような、平成最後の夏であった。

そんな訳で、あまり目立った仕事も無いし、思い付きで、午後半休を申請し(8ヶ月ぶりの有休取得)、髪でも切りに行こうかと街に出たのだが、火曜日だったのでヘアサロンは休みだった。

仕方ないから、少し疎かにしていた部屋の掃除と整理、そして、ちょっと早いが、夕飯の支度でもしようかと、帰宅することにしたのだが、これって半休取った意味なくね? と思い直し、会員登録はしているが全く活用していないネットの動画配信サービスで、適当に部屋の整理をしながら、映画を観ることにした。(半休だと映画館に行くほどの余裕は無いんだな)

選んだのは「湯を沸かすほどの熱い愛」という映画で、私の敬愛する宮沢りえ主演。前評判も良かったし、予告編もまずまずで、映画賞も受賞してるから、と観てみたのだが、ちょっと期待外れだった。

ただ、他の映画を観直す時間の余裕もなかったので、ずいぶん露骨に涙腺を攻めてくる映画だな、なんて、悪態をつきながら、そのまま観ていたのだが、まんまと涙腺を攻め落とされ、気付けば、嗚咽を漏らして号泣していた。

そして、気付けばタイムリミット、瞼を腫らしたまま、娘のお迎えのため、保育園へ急ぐのだった。

まあ、そんな、降って湧いたような、とても短い父の夏休みの思い出でした。

長文失礼。

8月9日(木)

昨日。

台風の影響で、会社から帰宅勧告が出た(大人の事情で「命令」や「指示」はあまり出せないらしい)ので、少し早く帰宅した。

思いがけず2日連続の早あがりである。

当たり前のことだが、早く帰れると、いつもより余裕を持って夕飯の準備ができるし、いつもより早く娘を迎えに行けるし、いつもよりたっぷり娘と遊べる。

この2日を振り返り、毎日、あと1時間でもいいから、早く帰れたら、色んなことがだいぶ違うよな、なんて、夢のようなことを考えていたのだが、ちょっと待て!

この地球上のある大陸では、週32時間で4日間勤務なんてことも珍しくなく、年に最低1度は2~4週間の休暇をまとめて取るのが当たり前、などという、夢のようなことを実現している国がザラにあることを思い出した。

う~む。 膝が震える。

5年に一度しか出ないリフレッシュ休暇(5日)を「休んでもやること無いから」と言って取得しなかった同僚(妻子あり)が私の隣の席に座っている(昨日も帰宅勧告されても帰ろうとしなかった)が、この差は一体何なんだろうか?

明日に光あれ。

8月10日(金)

このところの激暑のせいもあり、会社でも、お迎えでも、遊びでも、旅行でも、近所でも、ずっとサンダルで過ごしていたのだが、昨日、気分転換にスニーカーを履いたら、即座に靴ずれした。

う~む。

さて、この日記を読んで下さっている人の中には、私が家事や育児にかなり積極的に関わっているように思っている方が多いようだ。

だが、実際のところ、日常的な実務の部分では妻と半々、若しくは、妻の方が少し負担が大きく、事務手続きや各種情報収集などは任せっきりなので、ほとんど妻におんぶ状態なのである。

にもかかわらず、私などは、目先のことだけで余裕が無くなってしまい、途方に暮れてばかりの情けない父ちゃんで、その事で、更に妻に負担や迷惑を掛けたりしている。

う~む。

まあ、そんな訳で、明日から僅かながらの盆休みが始まるが、せめてもの罪滅ぼしに、妻には存分に羽を伸ばして貰おうと思っている。

あと、私自身も少し羽を伸ばして、気持ちに余裕を確保しないと駄目だな。育児のコツは、適度な息抜きや気分転換と、たまには子どもから離れることなのかもしれないな。

8月14日(火)

土・日曜日は私と娘で実家に一泊、その間を妻の自由時間とし、月曜日は私の会社が盆休業だったため、娘を保育園に預け、その間を私の自由時間とさせて貰った。

ささやかな夫婦の夏休みである。

しかし、よくよく思い直してみると、日中に独りで気侭に外出すること自体、私においては実に11ヶ月ぶりの事だったのだ。

恐ろしい。。。

そんな訳で、あまりにも久々ということもあり、無為な休日にしないためにも、事前にかなり綿密な計画を立てて臨んだのだが、お盆期間であることを考慮していなかったため、昼食に行こうと思っていた店が全滅(盆休業の為)で、泣く泣くチェーンのラーメン店で昼食をとることになった。

うぅむ。。慣れていない。。

でも、昼食以外の行程は順調に消化し、無事に帰宅したのだが、ちょっと予定を盛り込み過ぎたせいか、かなりヘトヘトになってしまった。

うぅむ。。慣れていない。。


という訳で、これからは、もう少し、自分の自由時間を増やしてもいいのかもしれないな、と感じる盆休みとなった。

8月15日(水)

終戦の日である。 「終戦」は造語である 正しくは「敗戦」

この時期は意識的に戦争に関する映像や文献などに触れるようにしているのだが、ここ最近、特に南方戦線に関わるものを多く参照している。

ガダルカナル、ニューブリテン、ラバウル、ペリリュー、パラオ、グアム、テニアン、サイパン、レイテ、ルソン、硫黄島、そして、沖縄戦へと続く悲劇の系譜である。

歯止めの効かない戦線拡大と軽忽で拙劣で残酷な作戦行動の結果、「こんな事ある訳ない」と疑いたくなるほど、無謀で無惨で無念で無意味な戦争の実態が、露骨に牙を剝きはじめ出すのが、南方戦線なのである。

南方という、永遠の夏に永遠に囚われた人々の過酷な体験に思いを馳せることで、改めて、平和の尊さと戦争の愚劣さを痛感する。

私の住んでいる自治体では、毎年8月15日に平和の祭典として花火を打ち上げる。今日は少し風が強いが、風前の灯にならないよう、娘と共に平和の花火を目に焼き付けてこよう。

8月16日(木)

娘が「エロエロに読んで!」とせがむので、何事だ!? と思ったら「レオ・レオニ読んで!」だった。

びっくりしたな! もう!

※レオ・レオニは絵本作家です 日本だと「スイミー」が有名です

さてさて、ということで(どういうことで?)、今夜は妻の帰りが遅いため、およそひと月ぶりに父娘二人きりの夜となるので、寝る前には思う存分、絵本を読んでやろうと思うのだが、最近、3冊の本を3回繰り返して読む、という謎の読み聞かせを要求されることが多く、けっこう疲れる。

8月22日(水)

先週末、御用邸裏の海岸に家族で遊びに行った。

秋を思わせるような清々しい気候の下、空には綺麗に巻雲が立ち昇り、海の向こうには青々とした富士を望み、翡翠色の海の水はどこまでも透明で、穏やかな波が砂浜を美しく洗い流す。

娘は眼前の広大な砂場(砂浜)に大興奮気味で、手当たり次第に砂を掘り起こしていたが、あまりにも広すぎることに気が付いて、呆然としていた。

御用邸の擁する海岸ということもあり、どことなく雅で荘かな佇まいでありながら、洒脱で垢抜けた土地柄の趣きが相まって、とても小気味よい風が海岸全体を爽やかに通り抜けていた。

私はというと、そんな海岸の雰囲気を楽しみながら、娘と空と富士と海と砂浜と日に焼けた水着姿の若い女の子とを交互に眺めやり、冷たい生ビールを喉ごしで味わうのだった。

なんて最高の週末なんだっ!


当初、海に入るつもりは無かったので、水着を持って行かなかったのだが、案の定、海に入りたくなってしまい、案の定、予期せぬ波でびしょ濡れになる父ちゃんと、遊びすぎて腹が減り、父ちゃんのごはんやおやつまで奪い取りながらも、まだまだ満足しない娘なのであった。

8月23日(木)

家で妻と仲良く(イチャイチャ)していると、娘がもの凄い剣幕でやってくる。

そして 「ナしてんの! ダっしょ!」 と叱られる。

素直に謝る。

すると 「ワった? モーないでね!」 と許してくれる。

少ししてから、今度はワザと仲良し(イチャイチャ)するフリをしてみると、また娘が叱りにやってきて、また謝る。



まったく。 なんと可愛いやつなんだ。

8月24日(金)

毎年、夏になると痛感する。父の身体はなんと貧相で脆弱なのだろうかと。

眩しく輝く太陽に照らされた海岸で、よく日に焼け、胸板も厚く、肩に小粋な紋を入れ、快活に笑う男たちを横目に、父の生っ白い痩せ細った身体は、頼りなく、情けなく、惨めで、哀れで、まるで幽霊のようである。

そして、父は静かに詫びるのだ。娘よ、こんな貧弱で気弱な父でごめんよ、と。

父にとって夏とはそんな季節なのだ。



しかし、やがて夏は終わる。まだまだ暑い日は続くが、それでも夏は必ず終わり、父の得意な季節がやってくる。

待っていろ秋よ。 待っていろ娘よ。

8月27日(月)

駅のエスカレーターで、前に立つ人の尻を眺めながら、今ここで浣腸などをしようものなら、相手が誰であろうとも、間違いなく警察沙汰だろうなと、歳甲斐もない衝動と妄想に襲われるのは、一体どういう訳だろうか。

暑いのだ。

38年間の私の拙い経験の中でも、これほど猛暑が続く夏は初めてであろう。おかげで「エアコンは甘え」とされていた価値観が崩壊し、寝る時などもエアコンを朝までつけっぱなしにしていることも珍しくなくなってしまった。

36℃の予報が出ていた昨日も、暑い最中に試しに買い物に出てみたが、これはちょっとヤバイなと感じるほどの暑さに恐れをなし、その日、近所の夏祭りで行われる「どじょうつかみ大会」への参加は断念した。

しかし、ここ数年、夏の暑さは確実に高くなってきている。このままだと娘がもの心つく頃には、夏休みに外出できることの方が珍しくなってしまうような、危険な季節になってしまうのではないだろうかと思う。

大変なことだ。

父のおかしな衝動や妄想の対応も大事だが、娘の夏休みの思い出はもっと大事で大切で尊いからな。

大変なことだ。

8月28日(火)

高校1年生の夏休みに、生まれて初めてのアルバイトをして、その給料でジャンガリアンハムスターの子どもを衝動買いしてしまった。

無計画に買い求めたため、ケージもエサも用意しておらず、ティッシュの空き箱で育て始めたハムスターに「コジコジ」という名を付けた。

さくらももこ先生の漫画の主人公から取った名である。
「コジコジ」を知らない方は調べてみて下さい。必見!

私の知る限り「コジコジ」の初出は「ちびまる子ちゃん」の9巻の扉絵からだと思うのだが、実のところ「ちびまる子ちゃん」は「コジコジ」が登場したこの9巻ぐらいから絵や話や登場人物に深みが増し、段違いに面白くなってくる。

ん? ずいぶん偉そうなもの言いじゃないかって?

というのも、私は高校1年生のこの夏以降ぐらいから、あることを切っ掛けに軽い登校拒否となり、家でハムスターの「コジコジ」の世話をしながら、気分が暗く落ち込まないように、自室で漫画などを読んで過ごしていたのだ。

その中でも「ちびまる子ちゃん」は何度も何度も読み返し、何度も何度も安心し、何度も何度も感動し、何度も何度も癒やされ、そして、救われた、恩人のような漫画なのである。

おかげで私は、短い期間で登校拒否から抜け出し、いろいろな問題を抱えながらも、前向きな高校生活に戻ることができたのだ。

もしも、あの時「ちびまる子ちゃん」が無かったらと思うとゾッとする。もしかしたら、あの些細な躓きから、私は永遠に抜け出せなかったかもしれない。思春期とはそういう危うく脆いものである。

さくらももこ先生。その節は本当にお世話になりました。そして、ありがとうございました。


そもそも、衝動的にハムスターを買ってしまう男子高校生ってどうなの? なんてことはあまり考えないようにして下さいね!

8月29日(水)

娘を育て始めてから、いろいろと大変なことが巻き起こり、困ってしまうことが多い私だが、世の父たちが私ほど困っているように見えないので、私が特別に困りやすい父ってだけなのかな、なんて、ちょっと諦めていたのだが、父が困っていることがはっきりと分かる、決定的な事実を発見してしまったのである。



ね。 父は困ってるもんなんだ。

さて、今日も今日とて、娘と二人きりの夜である。今夜の父はどれだけ困ることやら。

8月31日(金)

今週が終わろうとしているが、気がつけば八月も終わろうとしていて、それからおまけに夏までもが終わろうとしているではないか。

いろんな事が終わっていく今日このごろだ。

さて、ここ数年、私は夏休み休暇を九月にずらして取得し、夏休みシーズンを外して旅行に出るようにしている。人混みを避けることが一番の目的だが、旅費を抑えることにも多少貢献している。おまけに九月には祝日も多いので、取り方次第ではかなり長いバカンスも可能なのである。

というわけで、世間的には今日でいろんな事が終わっていくのだが、私にとっては、むしろ始まりなのである。言うなれば前夜祭。

九月! 万歳!